待ち望んでいた日。
予定日の少し前に、その日はやってきた。
「とにかく動きましょう」
正期産期に突入し、産科の先生からそういわれていた私は、上の子の生活のリズムを優先しつつ、日々近所を散歩したりヨガをしたり。
できるだけ穏やかな気持ちで、そのときを待っていた。
というのも、以前も書いたけど、はじめての出産では、広告代理店OLで頻繁に外食もしていたし、それまでの生活と何ら変わらず、そこそこ残業もこなしてた妊婦生活だった。
運動とかも特に意識してなったし体重管理もゆるく、そんな自分の甘い考えから、出産間近に控えたある日、みるみるうちに足が浮腫み、妊娠高血圧症候群と診断され緊急入院に。
自分だけでなく、小さな小さなわが子を危険な目に遭わせてしまい、そして、産後も家族をはじめ、周りの人にかなりサポートしてもらいながら、ボロボロのままの新米母、育児スタートだった。
だから、今回は
「自分にできる限りの準備をしよう」
そう心に決め、食事を整え、体を整え、心を整え(=リラックスできる状態で)、今回のお産に臨んだ。
自分では万全を期したつもりだったけど、それでも、父や父方の祖母も高血圧持ちという遺伝的にもリスクはあったし、最後の最後まで不安はつきまとっていた。
そんなふうに心と身体は日々揺れ動きつつ、迎えた出産当日。
明け方4時ころ、
前日にやったウォーキング1時間半とマタニティヨガ1時間がきいたのか(笑)、
破水からはじまるという、なんとも威勢のいい子。
少しずつ破水はしているものの、病院に行くまでも着いてからも、しばらくは普段どおりに動けたし話すこともできた。
「子宮口の開きは3cm。そのうち陣発すると思うから、このまま入院ね〜」と、
診察してくれた先生にいわれ、そのままLDR室のベッドで陣痛を待つことに。
1時間ほど経った朝6時ころ。
「陣痛かな?」と思い、モニターに目をやると9〜10分間隔くらいの定期的な波形。
それに合わせて、下腹部に生理痛のような、鈍い痛みを感じはじめる。
その1時間後、今度はぐわ〜っと今までとは明らかに違う、
“押し寄せる”という表現がぴったりな、痛みの波が次から次へとやってくる。
「赤ちゃんがむかってきている。自分の意思で、生まれようとしている」
ベッドの上か見える、窓の外の、朝の空をぼんやりと見つめながら、そうはっきりと感じられた。
産道を通るとき、赤ちゃんは呼吸を止め、暗くて狭い道をおりてくる。
陣痛のたび、お母さんはおなかや下半身の痛みだけど、赤ちゃんは全身に痛みを感じている。
出産前に、そんな話を聞いたことがあった。
今、このとき、私には夫や家族がサポートしてくれているけど、赤ちゃんはたった1人で、この未知なる新しい世界に生まれようとしている。
だから、私はとにかく深く呼吸を届け続けた。
わが子の、その、生まれようとする力を信じ、サポートするように。
トツキトオカのあいだ一心同体だった身体。
妊娠という、人生で1、2度あるかないかの貴重な時間の、最後の瞬間。
最後にして、そして、親子としては最初の共同作業。
「赤ちゃんと私が、力を合わせて生むんだ」
1 人目のときは誘発分娩だったし、分娩時間も違う。
でも、時間は長かろうが短かかろうが、「生まれる」という基本的な過程はみんな同じ。
だから目を見開いて、周りの声を聞き、深く呼吸して、ぜんぶ味わい尽くした。
そして、最後の力を振り絞りきった瞬間、
「下見てて、下見てて〜!」と、助産師さんや先生の声が聞こえる。
いきんでいた全身の力をふ〜っと抜きながら、おなかの方に視線をやると、へその緒が繋がったままのわが子が抱きかかえられて出てくるのが見えた。
「オギャーッ!」と、とにかく威勢のいい声で泣いた。
その声を聞くやいなや、破水からずっとそばに付いていてくれた夫の顔を見て、ぶわ〜っと涙がこみ上げる。
その後、生まれてしばらくもわが子はたくさん泣いていて、助産師さんや先生からも、とにかく「元気、元気!」と。
本当に、ホッとした。
その一言に尽きる。
点と点が、線でつながった日
1人目の子が教えてくれた妊娠期間の過ごし方のこと。
自分の身体で、人体実験をしているような妊娠期間だった。
とにかく食は、決めすぎず、おおらかに。
ハレの日とケの日の食事を使い分け、多くを過ごすケの日のは、和食を中心に、シンプルな材料、調理法で素材本来のおいしさを感じられるように。
濃いめの出汁で自然なうまみを足したり、高血圧予防や、便秘になりやすい妊娠期にできるだけ腸内環境を整えるためにも伝統的な発酵調味料を使って。
そして、1人目の育児が身体を作ってくれた。
足腰をはじめ全身の筋力もついてきたところに、ヨガを通して意識的に柔軟性を高め、骨盤を整える。
最後は、母親である自分が心身ともに心地いいと感じられる状態で。
1人目の子が通り切り開いてくれた同じ道を通って、赤ちゃんが今、生まれてこようとする力を、全力で信じる。
こうして、家族や病院スタッフの方々に支えられ、無事に終えることができた。
夫婦としても、家族としても、たくさんのことを話し、そして選択してきた今回のお産。
そのひとつひとつの選択、成功や失敗も含め経験の数々が、今回の「幸せなお産」に繋がったんだと、今はそう思える。
お産はゴールでもあり、新たな育児のスタート。
授乳も開始し、すでに、再び“おっぱい奮闘記”もはじまっているけど(笑)。
まったく個性の異なる子たちと日々向き合いながら、おおらかに、子育てを楽しみたいと思う。
そして、きっと、2人のわが子を産んだ日のことは、一生忘れない。