世田谷美術館で行われている、「民藝」をテーマとした企画展「民藝 MINGEI─美は暮らしのなかにある」の巡回展に行ってきました!
昨年、関西に行ったときに河井寛次郎記念館で民藝展のチラシをもらって行きたいな〜と思いつつ、そのときは大阪の美術館の案内だったので東京に巡回してくるこのときを心待ちにしていたのでした。
「民藝=地方の土産物」ではない
民藝ってどんなイメージがありますか?
私は少し前まで「民芸品、民芸」と聞くと、観光地によくある、昔ながらのお土産屋さんに売られている雑貨や独特の置きものなんかを想像していた。それが誤解だと分かったのは、民藝を深く理解しようとしてから。
民藝の本来の意味を理解しないまま、地方から掘り出した雑具や骨董など、趣味的なものを並べる場合があり、民藝をゲテモノ、奇異なものとして捉える人々も少なからずいたようだ。柳はこの誤解を解くために、機会あるごとに分かりやすく民藝を説き続けた。『工藝』第105号(柳が発行した雑誌)に発表された「用の美」もそのうちの一つである。(民藝展図録より)
民藝とは一言で言えば「暮らしのなかから生まれ、暮らしの中に根付いたもの」(もとは柳宗悦の造語らしい)。
もう一つ分かりづらいのが、民藝と工藝の違い。
ぼんやり輪郭は捉えつつあるものの、私も未だごっちゃになって使ってしまうことがよくあります。「民藝=民主的工芸」だから、民藝の方がより人々の生活に近いところにあるものと理解してます。
自分の備忘録にも日本民藝協会の解説を置いておきます。
そもそも「民藝」という言葉は、「民衆的工芸」の略語で、柳と美の認識を同じくする陶芸家の浜田庄司、河井寛次郎らによってつくられた言葉である。つまり、民藝品とは「一般の民衆が日々の生活に必要とする品」という意味で、いいかえれば「民衆の、民衆による、民衆のための工芸」とでもいえよう。
では柳の説く「民藝品」とは具体的にいかなるものであるのか。柳は、そこに見られる特性を次のように説明している。
- 実用性。鑑賞するためにつくられたものではなく、なんらかの実用性を供えたものである。
- 無銘性。特別な作家ではなく、無名の職人によってつくられたものである。
- 複数性。民衆の要求に応えるために、数多くつくられたものである。
- 廉価性。誰もが買い求められる程に値段が安いものである。
- 労働性。くり返しの激しい労働によって得られる熟練した技術をともなうものである。
- 地方性。それぞれの地域の暮らしに根ざした独自の色や形など、地方色が豊かである。
- 分業性。数を多くつくるため、複数の人間による共同作業が必要である。
- 伝統性。伝統という先人たちの技や知識の積み重ねによって守られている。
- 他力性。個人の力というより、風土や自然の恵み、そして伝統の力など、目に見えない大きな力によって支えられているものである。(日本民藝協会 民藝の趣旨)
いざ「民藝展」へ
今回の展示は3章から成っていて、「衣・食・住」にまつわるさまざまな民藝品を日本民藝館の所蔵作品を中心に約150点を展示。さらに、現在も続く民藝の5つの産地を訪ね、つくり手とその手仕事も紹介されていました。
「第1章 1941生活展」では、柳が設立した日本民藝館で、1941年に開催された「生活展」を再現。生活空間を作り出し、そこに民藝の品々を展示するという試みは当時、画期的だったのだそう。いわば空間コーディネート・スタイリングのはしり?
テーブルから茶器一つひとつにいたるまで、各地で選び抜かれた民藝品が置かれている。
中央にあるのは子供用のアームチェア。小さくとも細部までしっかり作り込まれているのが遠くから見ても分かる。イギリス製のサイドボードテーブルは、1932年当時「壁面に寄せて物を置くによし」と日本流の使用方法も提案しながら展示されていたそう。
「第2章 暮らしのなかの民藝」では「衣・食・住」の3つに分けて”機能的でありながら美しいデザイン”を基準に選んばれた民藝品が紹介されています(ここからは写真NGだったのでテキストのみで!)。
「食」のパートに展示されていた染付の猪口について、柳は「墓前に備えられた猪口を見て、子どもの器に使いやすいと考えた」のだそう。以来、柳家では猪口類は子ども用の椀として来客の茶器として頻繁に用いられていたとも。
つくり手は用途を意図して作る場合もあるけど、最終的な使い方は使い手に委ねられている。決めきらない、そういう余白があるところもいいなぁと思う。
黒い釉薬が流れたような表情の焼き締め茶壺について「柳は自宅に帰る前に京都の河井寛次郎の自宅に立ち寄って、愛でて語り合った」とも。解説を読むごとに民藝愛、蒐集愛が溢れているわ……このお2人。
印象的だったのは「台所は民藝の宝庫、置かれた品物も日々使われるから輝きを増す」という言葉。
そうそう。民藝の何が好きって、日常的に触れて使う道具でありながら、美しさを五感で感じられるところが、美術品とも単なる日用品とも違う。そして、ものの醸し出す空気感から、それが作られた土地を想像するのも楽しい。
「第3章 ひろがる民藝」では、靴下、土鍋、ランプ、踊り衣装など海外の民藝品も展示されていました。また、「小鹿田焼」「丹波布」「鳥越竹細工」「八尾和紙」「倉敷ガラス」の5つの産地にフォーカスし、現代のつくり手たちの“いま”が映像とともに紹介されています。
日本ほど手仕事が盛んに行われている国はないそう。
最後は、セレクトショップ「BEAMS」のディレクターとして、現在の民藝ブームに大きな役割を果たしてきたテリー・エリスと北村恵子(MOGI Folk Art・ディレクター)によるインスタレーション。
日本の風土を感じる民藝品を現代のライフスタイルと融合したらどうなるのかが体現されていて、洗練された中にも温かみを感じる。現代的な自分の家や生活にも、民藝を取り入れる参考になりそう。
じっくりたっぷり観て、気づけばあっという間に2時間が過ぎていました。
美は暮らしの中にある
常日頃、丁寧に暮らせていなくたって、たまたま切った野菜の断面が美しいとか水に濡れた葉が美しいとか、日常に転がる小さいな美しさを、たった0.5秒でも味わってみる。すると、ほんの少し呼吸が深まり、全身に血がめぐる気がする。小さく小さくそう行った感覚を積み重ねていくことで、自分が満たされ、私は「生きていること」を感じられるのだと思う。
「美と生活を結ぶこと。
見ることから用いることに転じること。」
ライフとワークのどちらにも生きてくるような、民藝の魅力をたっぷり感じられた、至福の時間でした。
アウト・オブ・民藝
「民」から芋づる編 MINGEIのB面!
同じ世田谷区内の三軒茶屋駅にある「生活工房ギャラリー」では『アウト・オブ・民藝』という展示が行われていたので、帰りに少し足を伸ばし行ってきました。
これも4月ごろ器屋さんに行った時、チラシをもらって気になっていたのでした〜。
自分たちの住む国の文化を深く知る、掘り下げることは本当に楽しい。アウト・オブ〜は8月25日(日)まで。
『民藝展』の世田谷美術館での会期は今週末6月30日までですが、今後は富山、名古屋、福岡と巡回予定だそう。
機会あらばぜひ!
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