昨年のことですが、Bunkamura ザ・ミュージアムで行われていた「イッタラ展」に行ってきました。

日本初、イッタラの大規模巡回展と謳われていて、かなり話題の企画展だったので行ったよ〜という方も多いかもしれません。

なぜ今さらこの話題かというと、展示で購入した図録をあらためて見返していたんですよね。

展示もさることながら図録もすばらしいのです。

世界トップのものづくりの歴史、哲学、デザインが紐解かれていて何度でも読み返したくなる。「いいものを作りたい」と思わせてくれる一冊です。

展示に行ったそのときも、とても刺激を受けて「レポート書こう!」と思っていたのですが、気づけばあれよあれよと年末になだれ込んでおりました(笑)。

3ヶ月前(!)の記憶を呼び覚ましながらレポートを書いてみますので、お付き合いいただけるとうれしいです。


フィンランドを代表するブランド、イッタラ

イッタラ展に向かったのは、10月も終わりに差しかかった頃。

フィンランドのイッタラ村にガラス工場が設立されて以来、イッタラは創立140年を迎えるんだそう!今回はその記念の展示でもある。はるばるフィンランド・デザインミュージアムなどからやってきた450点にもおよぶ作品がずらりと並ぶ。

ちなみに、遡ること7年前、新婚旅行で向かった先はフィンランドとアイスランドだった。完全に私の趣味である(笑)。

これを快く受け入れてくれた夫もありがたいのだけど、ファッションや音楽など好きなものが似ているせいか、この行き先を提案したときにもさして議論はなく、すんなり決まったように思う。それだけ、フィンランドのデザインというのは老若男女問わず心を掴むものがあるんだろう。

しかし、そのときは6月の祝日シーズンでイッタラのガラス工場もマリメッコの本社&工場もお休み。見学できずじまいで、無念……。いつかリベンジしてみたいと思っている。

義父へのお土産もティーマシリーズのマグカップだった。年末年始に夫の実家へ帰省したときに目にして、懐かしく思っていたところだった。

 

話を展示に戻そう。展示は
「イッタラ140年の歴史」
「イッタラとデザイナー」
「イッタラの哲学−イッタラを読み解く13の視点−」
と、大きくわけて3部の構成になっている。

心に残っていること

「イッタラ140年の歴史」では、町のガラス工場として始まった創業期から、現在、テーブルウェア界において誰もが知る世界のトップブランドに至るまでの歩みを辿ることができる。

イッタラはいつだってガラス職人とデザイナーの創作を生むプラットフォームだったことがうかがえる。そして、フィンランドの工業デザイナーが共通に持つ「素材への深い理解と愛情と感覚」は、ものづくりに関わるものとして心に留めておきたい言葉だ。

「イッタラとデザイナー」のパートでは、フィンランドを代表する建築デザイナー、アルヴァ・アアルトの「優れたデザインは日常生活の一部であるべき」という言葉が書いてあり、これにもとても共感した。

 

少し話は逸れるが、私は一芸に秀で流ことができない、平凡な自分にいつも自信が持てなかった。

「音楽の才があればな」「スポーツを極められればよかったのに……」なんて思っていた時期もあった。

そんな飛び抜けた才能がないからこそ「日常」を重要視しているのかもしれない。そして、日常の中でもとりわけ多くの時間を過ごし、もっとも身近な存在である食やうつわというものの魅力に惹かれるんだろうか、ということを考えていた。

図録に収録されているインタビュー中でもミナ ペルホネンの皆川明氏が語っていたのだけど、食器というのは服よりも少しパーソナルな部分を離れる。つまり誰かと共有することができるということ。友人と家族と、豊かさ、よろこび、おいしさの共有。ひとりよがりじゃない(と思える)ところも、好きな理由の一つなのかも。

バリエーション豊かな、絶妙な色味のカラーガラスもイッタラの魅力。光を通して落ちる影に映る色も美しい。ガラスは影までも楽しむことができる醍醐味があると思っている。

この「カルティオ」のタンブラーをデザインしているのはカイ・フランク。フランクは日用品の数を最小限に抑えることを提言していたそう。

カルティオのデザインからもミニマリズムの美というか、削ぎ落とされた美しさみたいなものを感じることができる。今やイッタラの看板商品ともいえる「ティーマシリーズ」も彼のデザイン。

職人気質で近代工芸の天才といわれたデザイナー、タピオ・ヴィルカラの作品はフィンランドの自然を表現していて独創的。これもまた美しい。ヴィルカラはフィンランドの自然の奥深く、人里離れたラップランド地方の別荘で生活していたそう。それらの景色の野生美は、ヴィルカラの美意識に大きな影響を与えている

代表作の「ウルティマ ツーレ」は春のラップランドで、氷と雪と光が組み合わさる風景からインスピレーションを受けて生み出された。食卓においたとき、自然とフィンランドの凍てつく氷に覆われた風景が思い起こされるような作品。

先ほどのフランクと作風はまったく違うけれど、同じブランドとして共存することがおもしろい。考え方や根本の価値観が同じであれば、ブランドに多様性が生まれ、さらに奥ゆきと広がりを見せる。

「イッタラの哲学−イッタラを読み解く13の視点−」では、アルヴァ・アアルトがデザインした、波打つようなうやわらかな曲線が特徴的な花器「アアルト ベース」の木型が置いてあった。

型の内部にガラスを吹き込むことで型の形状が表面に写し取られるのだけど、木型ではより自然の質感が表面に現れる。現在使われているスチール型と質感の違いを比較できる展示が興味深かった。

 

スタッキングできるガラス、つまり「連ねる、重ねる」というのもイッタラの魅力。

タピオ・ヴォルカラのデザインしたタンブラー「フォレスト」はスタッッキングできるようデザインされている。ガラスって場所をとるし重ねるのも怖いけど、フォレストは安心して重ねて収納することができる。デザインの美しさと機能性、実用性を両立していることが、生活者にとってうれしい。

展示の最後には、日本での展示ならではの「イッタラと日本」というパートがある。

カイ・フランクは日本をたびたび訪問し、日本の工芸を見て回っていたのだそう。また京都の龍安寺にも赴き、そのときに見た光景を「おそらく今まで見たなかで最も美しいものだ」と言ったのだとか。

イッセイ ミヤケやミナ ペルホネン、そしてイッタラカフェの店舗設計にも携わった建築家・隈研吾氏との関わりなども動画や展示で紹介されていた。

日本のものとフィンランドのもの。遠い国のようでいて、感覚的に共通するものを感じることがある。

デザイン界においても、互いに尊敬しながら刺激し合っている。そんな、フィンランドと日本のものづくりのトップを走る人たちとの関わりをみて、日本人であることに誇りを感じずにはいられなかった。

私自身も、北欧デザインと同じように日本の文化に心惹かれている。一時期、京都に住んだ影響もあるかな?と思っていたけど、ちゃんとした理由、共通の価値観があるということも知ることができた。

最後に出口付近でずらっと並んでいたのが「バード バイ トイッカ」。

現在までに500種類も作られているのだとか。

デザインを手掛けたのはフィンランドを代表する画家でありデザイナーのオイバ・トイッカ。トイッカは想像力豊かで大胆なガラスアートを生み出し続けた。「バード バイ トイッカ」は熟練のガラス職人たちと密に協力し、一羽一羽手作業で作られていったんだそう。

人はなぜこんなにもガラスに、イッタラに惹きつけれるのか

永続的なデザイン、サステナビリティ、美しさ、機能性

これらはイッタラのデザインの根幹を成す、基本的な考え方である。

そして、色や形、素材が自然に近いことも魅力的である。

フィンランドでは、冬の寒さが厳しく、夜も暗く長い。自然と屋内で過ごすことが多く、鬱々とした気分になってしまうこともあるだろう。

私たちの生活はコロナ禍を経て、ますます家の中に意識を持つように変化してきた。

そんななか、ミニマルでありながら機能的で、豊かな色彩、形、素材を持つイッタラの製品たちは、連綿と続く日常にきらめきをもたらす存在なのだろう。